プロジェクトストーリー Story
下水道インフラを守るため、
国内初のフルコンセッション事業に挑む。
今回の三浦市の下水道コンセッション事業を担うことになった経緯を教えてください。
- 小針
- まず、その前提となる国の施策である「ウォーターPPP」についてお話しします。PPP(Public Private Partnership)とは、公共施設などの建設や維持管理に民間の知恵や資金を活用し、「官民連携」で行政サービスの向上を図る手法です。当社もこのPPPにかねてから注目し、7年ほど前に私が責任者を務める「プロジェクト推進室」が立ち上がり、メンバーである馬込や髙野とともに自治体に対してPPP事業のアドバイザリー業務などを展開してきました。このPPP事業を上下水道分野に適用し、2023年に政府が官民連携をいっそう強力に推進するべく新たに打ち出した方針がウォーターPPPです。ここでは、上下水道施設の維持管理や更新などをはじめ、上下水道事業の運営すべてを民間に委ねていくコンセッション方式の導入が掲げられました。
- 馬込
- 上下水道事業は各地の自治体がそれぞれ運営していますが、どこもいま大きな課題を抱えています。高度成長期に建設された上下水道インフラはすでに老朽化しており、それを維持管理しつつ更新していく必要に迫られていますが、一方で財政難や人手不足などの問題がその障壁になっています。今回我々が関わった三浦市もそうでした。施設の老朽化が進み、点検や更新の需要が増大しているものの、それに対応できる職員が不足。さらに、人口減によって下水道使用料収入が減少し、市の一般会計への依存度が高まっています。こうした問題を解決するために、三浦市は下水道事業においてコンセッション方式のPPPの導入を決断され、我々はそこにチャンスを見出したのです。
- 髙野
- 当時、下水道事業へのコンセッション方式の導入はまだほとんど例がなく、三浦市が全国で4例目でした。しかも、三浦市が目指していたのは、処理場やポンプ場、管路を含む公共下水道施設すべての維持管理や更新まで民間企業に委託するという、フルコンセッションでの事業運営。これは国内初であり、当社としても大いにチャレンジしがいがある。これから上下水道のコンセッション事業は全国に拡大していく可能性があり、その実績を作るためにも、いまここで手を挙げないわけにはいかない、という思いでした。
- 小針
- 私も同じ気持ちでした。上下水道事業のコンサルティングを行う業界には、多くの競合が存在します。そうした競合に勝つために、何か尖った強みが欲しいと個人的に思っていました。市場がまだ立ち上がったばかりの上下水道のコンセッション事業なら、我々が先駆者となって実績を上げることで、業界内で存在感を発揮できる。手をこまねいていても状況は変わらない。むしろ、いま行動を起こさなければ競合他社に後れを取るという危機感もあり、ぜひこのプロジェクトに挑戦したいと経営陣へ伝え、三浦市が立案している事業の把握や提案内容の企画、関係企業との対話に着手しました。

自治体の実情を深く理解し、
DXを駆使した事業運営提案が高く評価。
このプロジェクトを推進するにあたって、当初不安に感じていたことはありますか。
- 髙野
- この三浦市の下水道コンセッション事業は、当社を含む民間企業5社でコンソーシアムを結成し、自治体に代わって施設の維持管理や更新を担うことになります。これまで当社は上下水道事業のコンサルタントとして、自治体のお客様にアドバイザリー業務を行う立場でした。私も過去、各自治体の下水道計画や設計に携わった経験があります。しかし今回は、我々自身が当事者として下水道事業の運営側に立つことになる。まったく未知の世界であり、新たなことにチャレンジできる期待はあったものの、我々に事業が運営できるのかという不安もありました。
- 馬込
- 私はむしろ高揚感のほうが大きかったですね。最初、コンソーシアムを組んだとき、今回のプロジェクトは当社にとって前例のない取り組みで、社内にノウハウは全くありませんでした。でも、だからこそ逆に「面白そうだ」と感じたんです。自分達の手で新たな知見を模索しつつ、未踏の領域を切り拓いていくという特別なミッションを負うことにモチベーションを覚えて、このプロジェクトに臨んだのです。
三浦市の下水道コンセッション事業を獲得できたのは、何が評価されたのでしょうか。
- 小針
- 今回のプロジェクトは、大手ゼネコンや機械メーカーなどとの協業によって進められ、競合となるコンソーシアムも存在するなか、提案コンペに勝って我々が運営事業者に選ばれました。結果的には、競合と比較して我々のコンソーシアムの評価が圧倒的に高かったんですね。コンソーシアムで協業した企業のみなさんの力はもちろんのこと、我々が上下水道事業のコンサルタントで培ってきた経験も提案内容に活かすことができ、それも高評価につながったと思っています。これまでのアドバイザリー業務を通して自治体がどのような悩みを抱えているのか、その実情をリアルに理解していたので、自治体目線で本当に有益な施策を提案することができました。
- 髙野
- より効率的な下水道事業の運営に向けて、独自のDXを提案したことも評価されたポイントだと思います。当社が開発したデジタル情報基盤を導入することで、下水道事業に関するさまざまなデータを一元的に集約し、それを分析することで精度の高い将来予測を可能にしました。さらに、データ分析にAIを活用し、老朽化した管路の更新時期なども的確に把握できるようになり、より合理的な施策を実施できる体制構築にも貢献しています。
- 馬込
- デジタル技術の専門組織を擁し、コンサルティングの品質向上を図っていることも、当社の大きな特徴ですね。当時のプロジェクトメンバーはコンソーシアム内の各企業と何度も協議を重ね、提案内容の作成に大変な労力を費やしたこともあって、運営事業者に選ばれたという報告を受けた時は本当に大きな達成感がありましたね。

新しい技術を提案しながら
社会課題を解決することが、我々の使命。
現在、三浦市の下水道コンセッション事業はどのような状況なのでしょうか。
- 髙野
- 2023年から20年間の契約でコンセッション事業がスタートしましたが、何しろ初めての取り組みだったこともあり、最初の年は事業運営の要点を掴むのに苦労しました。このコンセッション事業は、当社を含めたコンソーシアム参加企業の出資によって「三浦下水道コンセッション株式会社」というSPC(特別目的会社)を設立し、こちらが主体となって運営を行っています。私は当社を代表してこのSPCに出向していますが、たとえば工事発注ひとつとっても勝手がわからず色々な人に教えてもらいながら進めました。しかし、そこで新たなノウハウを獲得しながら業務を改善し、2年目からようやく軌道に乗ってきた感じです。大変な思いを味わうこともありますが、こうした経験はなかなか得られるものではない。この出向を通して自分のキャリアが大きく広がったように感じています。
- 馬込
- 私もこのプロジェクトを通して多くの学びを得ました。特に、コンソーシアムにおいて他業種の企業の専門家の方々と協業できたのはとても刺激的で、我々に欠けていた法務や財務などの経営知識の必要性を感じることができ、今後、同様のコンセッション事業に参画する時には、よりプロジェクトに貢献できるのではないかと思っています。また今回、全国で初となる下水道のフルコンセッション事業に関わるコンサルタント企業として、当社への評判も高まっており、自治体の方々からの問い合わせも増えています。こうして注目される存在となるのは、少し誇らしい気持ちですね。
- 小針
- いろいろと問題を抱える下水道事業を、未来に向けて持続可能なインフラにしていくために、我々が挑んでいるコンセッション事業は本当に意義のあるものだと思います。ここで我々が得た知識やノウハウを広く展開し、また新たなPPP事業に貢献していきたいですね。
3人は社会課題を解決するプロジェクトの最前線でいま活躍されていますが、最後に、みなさんが感じる「日本水工設計でキャリアを積む魅力」について聞かせてください。
- 馬込
- より大きな仕事ができる人材になれるよう、キャリアアップの機会を積極的に提供してくれる会社です。過去PPPが世間に注目されて当社もこの分野で事業を拡げていくことを掲げた時、私に白羽の矢が立ってPPPを専門に研究する社会人大学院の「公民連携専攻」で学ぶ機会を与えてもらいました。仕事と学業の両立は大変でしたが、新たな知識や人脈を築くことができ、大いに自分を高めることができました。今回の三浦市のプロジェクトを推進していく上でも、それが私の糧になったと強く感じています。
- 髙野
- 日本水工設計は、さまざまな専門性を持つ人材の集団です。土木に強い技術者もいれば、機械や電気、さらにはITを究めている技術者もいる。また、今後コンセッション事業が拡大すれば、事業運営にも長けた人材も増えていくでしょう。どんな志向の方も活躍できるフィールドだと思いますし、さまざまな専門性を社内でかけ合わせられるからこそ、今回のようなプロジェクトも担うことができる。こうした環境でキャリアを積めることに、私は魅力を感じています。
- 小針
- いま我々が手がけているのは官民関わらず、社内外の多様な方々と連携しながら事業を組み立て、動かしていく仕事です。一筋縄ではいきませんが、やりがいは非常にある。新しい技術を提案しながら社会課題を解決していくことが我々のミッションであり、しかもそれをまだ誰も足を踏み入れていない未開拓の地で果たそうとしている。そんな仕事に魅力を感じる方に、ぜひ参加していただきたいと思っています。
※所属、掲載内容は取材当時のものです
